労働条件の不利益変更に関するケーススタディ
平成18年12月25日 発行
会社業績の変動や経営方針の変更などにより、社内ルールを大幅に見直すケースが増えています。それに伴い、賃金をはじめとする労働条件の引き下げ(不利益変更)が問題となってきます。今月号では労働条件の不利益変更について、判例により示された判断基準や具体的なケースを基に解説します。

労働条件の不利益変更における基本的な考えかた
 
賃金の引き下げや所定労働時間の延長、所定休日の削減、退職金の減額など、既存の労働条件を低下させる変更はいずれも不利益変更に当たります。全体としては労働条件の引き上げであっても、一部の労働者に対しては引き下げとなる場合には、その労働者にとっては不利益変更になります。
就業規則などを変更して労働条件を引き下げる場合、その変更部分について個々の労働者の同意を得ることが大前提となります。同意が得られない労働者も含めて変更後の労働条件を適用させる場合、変更に『客観的な合理性』があるかどうかが判断の基準となります。
客観的な合理性の有無は、不利益変更の内容を総合的に見て判断されるため、具体的な評価基準は設けられていません。ただしいくつかの最高裁判決により、次のような判断項目が示されています。
(1) 変更により労働者が受ける不利益の程度
(2) 会社側の変更の必要性の内容・程度
(3) 変更後の就業規則の内容自体の相当性
(4) 代償処置その他関連するその他の労働条件の改善状況
(5) 労働組合などとの交渉の経緯
(6) 他の労働組合または他の労働者の対応
(7) 同種事項に関する社会における一般的状況
特に賃金、退職金など労働者にとって重要な労働条件を引き下げる場合には、左記の7項目についてより厳しく判断されます。
判例では、左記の項目のうち(4)を重視する傾向があります。

労働条件の不利益変更の具体的なケース

★会社業績の低下などを理由に賃金を引き下げたケース

【ケース1】
経営上の理由から、年功給、賞与を廃止して新たに奨励給を創設し、月額賃金に一本化したケース。
(県南交通事件 平成15年2月6日 東京高判)

<判例による判断> ⇒合理性ありとして有効
労働生産性に見合った公平で合理的な賃金となる利点がある。
(判断項目1、3)
就業規則の変更は、同業他社の水準に近づけることで競争力を維持しようとする高度の必要性があった。
(判断項目2)
不利益を補う代償措置が採られていた。(判断項目4)
組合との交渉など適正な手続きを行なっていた。
(判断項目5)

【ケース2】
経費削減を目的に各種手当を廃止・減額し、賃金の25%を引き下げたケース。
(杉本石油ガス事件 平成14年7月31日 東京地決)

<判例による判断> ⇒合理性なしとして無効
経費削減の必要性は認められるものの、賃金を25%まで削減する高度の必要性があったとはいえない。
(判断項目2)
一律25%削減ではなく、会社の判断で削減率を6〜20%の範囲に留めることができる内容であったため、会社が恣意的に調整できる不合理な変更である。
(判断項目3)
担当業務の軽減がなく、代償措置を設けていない。
(判断項目4)
労働組合の交渉においても説明が不十分で誤解を招く点があった。
(判断項目5)
★成果主義的な賃金制度に変更したケース

【ケース1】
年功型の賃金制度(年功部分8割、職能部分2割)を成果型の賃金制度(職能部分8割、年功部分2割)に変更したケース。
(ハクスイテック事件 平成13年8月30日 大阪高判)

<判例による判断> ⇒合理性ありとして有効
新制度の導入により8割程度の労働者の賃金が増額するため、不利益の程度は大きくない。
(判断項目1、3)
赤字経営のため、収支を改善する高度の必要性があった。
(判断項目2)
新制度では平均以下の評価の者は減額となるが、会社の実施した補償制度(最長10年間)により不利益は小さい。
(判断項目4)
新制度の導入にあたり十数回の交渉が行われた。
(判断項目5)

【ケース2】
年功序列型賃金制度から成果主義賃金制度へ変更したケース。
(ノイズ事件 平成16年2月26日 横浜地川崎地判・平成18年6月22日 東京高判)

<判例による判断> ⇒合理性ありとして有効※1審は無効
賃金制度の変更は賃金原資を減少させるものでなく、原資をより合理的に配分するものである。
(判断項目2、3)
昇給、昇格において平等な機会が与えられている。
(判断項目2、3)
会社が行った代償措置(2年間に限り、変更前賃金との差額(1年目は100%、2年目は50%)を支給)は手厚いとはいえないが、合理的な内容であるといえる。
(判断項目4)

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