固定時間外手当制度における注意点

平成25年10月25日  発行

近年、残業代を固定的に支払う制度(固定時間外手当制度)を導入する企業が増えてきています。しかし、労働基準監督署の調査や裁判例では、固定的な支払いが残業代として認められないと判断しているケースが増えてきています。そこで、今月号では「固定時間外手当制度」を導入する際の注意点を2つの支払いパターンを例に解説していきます。

<固定時間外手当制度とは?>

通常、使用者が法定労働時間(1日=8時間、1週間=40時間)を超えて労働者を使用した場合、使用者は労働者に対して、労働基準法第37条で定められた計算方法による割増賃金を支払わなければなりません。しかし、企業の中には、固定時間外手当制度を導入し、割増賃金の支払いを定額の手当等で支払ったり、基本給の中に一定額を含めて支払う企業もあります。

時間外手当を定額で支払うことそれ自体は、実際の時間外労働等によって算出した割増賃金に相当する金額が支払われている限り、必ずしも違法ではありません。しかし、この制度を導入することで、一定額の手当のみ支払えば、労働者が何時間働いても全ての時間外労働に対する割増賃金の支払いを済ませることになると考えている企業も少なくありません。近年の裁判例では、このように固定時間外手当制度が割増賃金の上限として機能している場合、サービス残業を助長し、過重労働を引き起こす要因となるため、合法的な固定時間外手当制度として認められないとする傾向にあり、注意が必要です。

※通常の労働時間または労働日の賃金の計算額の2割5分以上5割以下の範囲内でそれぞれ政令で定める率以上の率で計算した割増賃金を支払わなければならない。

“固定時間外手当制度の2つの支払パターン”

①  定額給制(基本給に時間外手当を組み込んで支払う方法) 雇用契約書等の記載例)基本給30万円(残業時間30時間分の残業代5万円を含む)
②  定額手当制(時間外労働に対して定額手当を支給する方法) 雇用契約書等の記載例)基本給25万円+固定残業手当5万円(残業時間30時間分)
①  定額給制における注意点 裁判例
● 1.通常の労働時間の賃金に該当する部分、2.それ以外の「時間外労働等に対応する割増賃金部分」をあらかじめ明確に区別していること。 ●基本給または基本給と諸手当の中に時間外賃金相当額がいくら含まれているのか明確ではないとして基本給に割増賃金を含むとする使用者側の主張を排斥(国際情報産業事件)。
● 年俸制を導入している場合などは、年俸制適用対象者が労働基準法上の管理監督者や裁量労働制の適用対象者としての要件を満たしているかの検討が必要。年俸制だからという理由だけで時間外割増賃金を支払っていないケースには注意が必要。 ●時間外労働割増賃金、諸手当、賞与を含めた年俸300万円を12分割して毎月25万円支給していた事例について、時間外割増賃金分を本来の基本給部分と区別して確定できないとし、時間外割増賃金の支払義務を認める(創栄コンサルタント事件)。
● 歩合給制を導入している場合などは、所定労働時間の賃金部分とそれ以外を区別して賃金制度を設計するのは非常に難しい。
現行の労働基準法のもとでは完全歩合給制を導入しつつ、その中に割増賃金部分も含めて支払う賃金制度を合法化するのは困難。
●タクシー乗務員が時間外および深夜労働について割増賃金を求めた事案において、歩合の額が時間外労働等を行っても増額されず、所定労働時間の賃金に該当する部分と時間外労働等の割増賃金に該当する部分とを判別することができない時は割増賃金を支払ったと見ることはできないと判断(高知県観光事件)。
②  定額手当制における注意点 裁判例
● 1.実質的にみて、当該手当が時間外労働の対価としての性格を有している、2.支給時に時間外労働の時間数時間外労働手当の額が労働者に明示され、定額残業代によってまかなわれる時間外労働時間数を超えて残業が行われた場合には別途精算する旨の合意が存在することが必要不可欠である。 ●「営業手当」のような諸手当が固定時間外手当としての性格を有するためには、左記1.と2.の取扱が確立していることが必要不可欠(アクティリンク事件)。
● 裁判所は、超過分の精算が行われていたか否かを固定時間外手当制度の有効要件の1つと捉えて、実質的な審理を行うという立場に立つ傾向が強い。 ●固定時間外手当制度に関する労使の合意があったとしても、定額手当でまかなわれる時間外労働時間数を超えた際に、その超過分の割増賃金が支払われていないという実態があれば、「無制限な固定時間外手当制に関する合意」として違法になりうることを示唆。
(ウィンザー・ホテルズインターナショナル事件)

“2つの支払いパターンに共通する要件”

・「時間外労働等に対応する割増賃金が他の賃金と明確に区分して支払われていたか」

・「労働基準法が定める計算方法による割増賃金額を上回る時はその差額が支払われていたか」

なお、最近の裁判例では、給与規程、雇用契約書(労働条件通知書)、給与明細への記載内容が重要な要素と捉えられている。