企業の安全配慮義務と最近の裁判例

平成25年12月25日  発行

個人情報の漏えいや食品偽装などのニュースが報道され、「ブラック企業」といった言葉が流行するなど、企業のコンプライアンスやCSR(企業の社会的責任)に対する関心が高くなっています。この流れを反映してか、法令違反に直結する長時間労働やそれに伴う過労死に対する企業の安全配慮義務責任は以前より厳しく捉えられる傾向にあります。今月号では、企業の安全配慮義務について最近の裁判例を踏まえて解説します。

企業の安全配慮義務とは?

「安全配慮義務」という考え方は、使用者が労働者に対して信義則上負う義務として、判例により形成されてきた考え方です。それまでも労働安全衛生法の目的として「職場における労働者の安全と衛生を確保するとともに、快適な職場環境の形成を促進すること」が定められていますが、昭和50年に出た最高裁判決でこの考え方が認められ、その後の判例においてもこの安全配慮義務違反を理由に企業の責任が問われています。

その後、平成20年3月に施行された労働契約法第5条において「使用者は、労働契約に伴い、労働者がその生命、身体等の安全を確保しつつ労働することができるよう、必要な配慮をするものとする。」と、使用者の労働者に対する安全配慮義務(健康配慮義務)が法律上明文化されています。労働契約法に罰則はありませんが、安全配慮義務を怠った場合、民法第709条(不法行為責任)、民法第715条(使用者責任)、民法第415条(債務不履行)等を根拠に、使用者に多額の損害賠償を命じる判例が多数出ています。

安全配慮義務の具体的内容としては、施設や設備管理において労働者の身体の安全を確保することだけでなく、過重労働で労働者が心身の健康を損なうことがないように①労働時間や休憩時間、休日、休憩場所等について適正な労働条件を確保すること、②健康診断を実施すること、③労働者の年齢、健康状態等に応じて従事する作業時間や内容を軽減したり、就労場所の変更といった適切な措置を採ることが挙げられています。そのためメンタルヘルス対策も使用者の安全配慮義務に当然含まれると解釈されています。

最近の裁判例① 平成25年3月13日神戸地裁判決(その後裁判外で和解成立)

【事件の概要】

生活雑貨大手チェーン勤務の男性正社員(当時30歳)が突然死したケースにおいて、遺族が突然死の原因は会社での過度な労働にあるとして、会社に対して9,100万円の損害賠償を請求した裁判です。

【判決の結果(要旨)】

●1か月15時間の「残業予算」と呼ばれる残業時間枠が予め設定され、上司である主任が毎日のように朝礼や夕礼などで執拗にその遵守を繰り返し指導していたことから、賃金不払い残業(サービス残業)が恒常的に行われるようになったこと

●タイムカードに記録されていない早出や打刻後の残業等を含めると、直近2か月間の時間外労働がそれぞれ月80時間を超えること

●フロアマネージャーから大きな声で怒鳴られるなどたびたび強い叱責を受け、本人にとって身体的,精神的負荷になっていたこと

●会社は賃金不払い残業(サービス残業)を社員が行っている状況を知っていたのに具体的な対策を取らなかったこと

⇒裁判所は、個々の事情に対して上記のような判断を行い、「死亡前の2か月間の時間外労働がそれぞれ月80時間を超えるなど過重労働、睡眠不足による心身の不調から突然死した」と過労死を認定したうえで、「従業員の安全に配慮する義務に違反した」として会社に約7,850万円の支払いを命じました。

最近の裁判例② 平成25年9月24日最高裁第3小法廷判決

【事件の概要】

全国チェーンの飲食店を経営する会社(東証一部上場企業)に新入社員として入社した男性社員(当時24歳)が、入社後約4ヶ月で急性左心機能不全により死亡したケースにおいて、両親が死亡の原因は長時間労働にあるとして、会社に対して不法行為または安全配慮義務違反に基づく損害賠償を請求するとともに、会社の取締役4名に対して不法行為または会社法429条(役員等の第三者に対する損害賠償責任)に基づく損害賠償を請求した裁判です。(労働基準監督署は男性社員の死亡につき業務災害と判断しています)

【判決の結果(要旨)】

●会社の給与体系における初任給の中に月80時間分の残業が役割給として含まれており、その時間に満たない不足分は控除するという制度だったため、実質的に長時間労働が強制されていたこと(社員の入社後の残業は毎月ほぼ80時間以上であったこと)

●会社が締結していた36協定の限度時間が「月100時間(年6回)」とされており、実際にも全社的に月100時間前後の残業が恒常化していたこと

●上記のような制度や協定をしていた会社は安全配慮義務を怠っており、取締役も善管注意義務に違反していたこと

⇒上記の認定を行ったうえで、一審から最高裁まで一貫して会社および取締役の安全配慮義務違反およびその他の責任を認め、合計約7,800万円の損害賠償を認めました。