TOP > 労働条件の不利益変更の適否 (労務情報NO.93)

 

労働条件の不利益変更の適否 平成14年1月25日 発行

最近の不況に伴ない、給与や退職金を減額するなど、社員にとって労働条件を不利益に変更する会社が少なくありません。労働条件の不利益変更は会社が一方的にできるものではなく、社員の個別の同意が必要とされます。しかし変更の合理性が認められるものであれば、反対している社員にも適用できるとされています。今月号では労働条件の不利益変更の適否についてどのような場合に合理性が認められるのか、その判断基準を基に解説します。

 

1.労働条件変更の原則と不利益変更にかかる合理性の判断基準

労働条件を変更する場合、個々の社員の同意を得ることが原則です。しかし社員にとって労働条件を不利益に変更する場合、すべての社員から同意が得られるかどうかは難しい問題です。この場合、変更後の労働条件の適用方法について次の3つのケースが考えられます。
(1)現在在籍している社員については変更前の労働条件をそのまま適用し、新規採用者には変更後の労働条件を適用する
(2)労働条件の変更に同意した社員にのみ適用させる
(3)労働条件の変更に同意しない社員も含めて全員に変更を強行する
(3)のケースの場合、労働条件の不利益変更にかかる合理性が認められなければ、変更後の労働条件は適用されません。その合理性の判断基準は次のとおりです。

  判断基準 具体的な内容・具体例
1 変更の必要性の内容・程度 不利益変更を実施しなければ経営状態に重大な悪化が及ぶなど、不利益変更をせざるを得ない経営上の必要性が認められなければなりません。例えば黒字にもかかわらず、単に会社の利益をあげるために給与削減を行なう場合は変更の必要性は認められません。
2 変更により社員が受ける
不利益の内容・程度
変更による不利益の程度が軽いものであればそれほど問題にはなりませんが、給与が大幅に減額されるなど不利益の程度が大きい場合には、たとえ高度の必要性が認められる場合でも、変更が無効とされる可能性が高いことになります。
3 変更後の就業規則自体の相当性 変更後の労働条件の水準が合理的なものであることが必要です。
4 代償措置その他の労働条件の
改善状況
例えば給与を減額する場合、制度上は給与を減額するが、現在在籍している社員については、その差額分を調整手当などとして支給したり、退職金の増額や雇用期間を延長するなど、不利益を緩和させるための措置が必要です。
5 社員及び労働組合への説得など
交渉の経緯とその反応
労働条件を変更するにあたり、会社が社員に対し誠意をもって十分な説明を行なったり、労働組合と誠実に労使交渉を行なった結果、ほとんどの社員から変更に関して理解の上同意を得たなどの事情が必要です。
6 変更した内容と同業他社・
他産業の水準との比較など
社会的妥当性
例えば同業他社に比べて給与の水準が高く、給与コストが他社との競争において重大な負担となっているような場合は、不利益変更に合理性が認められる1つの重要な要素となります。

2 重要な労働条件の不利益変更の適否

給与や退職金、労働時間など重要な労働条件については、その不利益変更に高度の必要性が認められなければ、合理性は認められません。
給与・退職金 0 人件費を削減しなければ会社経営が危ないなど、高度の必要性に基づいた合理的な内容のものでなければ認められません。特に社員が受ける不利益が著しく大きい場合には、代償措置の実施など他の労働条件の改善に努めるなど、社員の不利益を縮小する努力が必要です。また社員および労働組合への説得(同意)など交渉の経緯も重要な要素です。
労働時間の延長 0 変更の必要性が認められ、かつ、休日の増加などによって実所定労働時間に大きな差がない場合は、変更に合理性が認められます。しかし、単に給与コスト削減を目的として、休日の増加や給与増額などの代償措置をとらず、労働時間のみを延長し社員に不利益を与える変更は合理性が認められません。

| 戻る |

Copyright(C) 1998-2003 CommunicationScience Co.,Ltd All Rights Reserved