通勤災害保護制度における通勤範囲の拡大
平成18年5月25日 発行
就業形態の多様化による兼業解禁への動きや経営環境の変化に伴う転勤時の単身赴任が進む中、会社若しくは単身赴任者の住居間の移動中の事故について、労働者災害補償保険法の一部が改正され、平成18年4月1日から施行されました。今月号では今回の法改正の内容について解説します。

1.通勤の範囲拡大

これまでは、通勤災害として認められるには、「労働者が、就業に関し、住居と会社との間を合理的な経路及び方法による往復を行ない、かつ、業務の性質を有するものでないこと」という条件が必要でした。
従って、兼業している労働者が次の会社へ移動する場合(会社間移動)や、単身赴任者が赴任先の住居から家族の住む自宅(以下、自宅)へ移動する場合(住居間移動)については移動中に事故に遭遇しても通勤災害は対象になりませんでした。しかし、今回の改正では、以下の移動について範囲が拡大され、通勤災害の対象となりました。

(1)会社と他の会社との移動
(2)労働者の赴任先住居と自宅との相互移動

●具体的には以下の図のようになります。(○:保険適用の対象 ×:保険適用の対象外)
(1)のケース

(2)のケース

2.通勤災害要件の具体例

(1)会社間移動時における通勤災害

1.複数の会社で働いている労働者の通勤災害の適用については、次の会社(移動後の会社)の保険の適用となります。
2.保険の給付額決定については、次の会社(移動後の会社)における賃金を使って計算します。
3.会社が就業規則において兼業を禁止している場合でも、通勤災害が起きた場合は保険の適用となります。
4.次の会社に移動する途中で、経路の逸脱や移動の中断をし、復帰した経路での事故については保険の適用はされません。
※経路の逸脱や移動の中断の考え方については、従来通りです。従って、移動の途中で映画鑑賞や、飲食店に入り飲食をした後の移動中における事故については、原則、保険適用されません。

(2)単身赴任者の住居間の移動における通勤災害

1.赴任先の住居から自宅への移動については、勤務日当日またはその翌日に移動する場合は保険の適用となります。
2.自宅から赴任先の住居への移動については、勤務日当日またはその前日に移動する場合は保険の適用となります。
※上記1・2の期間に、天候悪化による交通機関の乱れや停止により移動日がずれた場合の移動も例外として保険の適用になります。 しかし、天候悪化などの特別の事情がないにもかかわらず、移動日をずらしての移動は原則、保険適用されません。

3.企業の対応

会社間移動時における通勤災害について、次の点に留意する必要があります。
【就業規則の災害補償規程の見直し】
労働者災害補償保険法に基づく災害補償の他に会社が任意に補償(上積み補償)している場合、今回の拡大部分をどのように運用するかが問題です。つまり、移動中の事故は次の会社における保険適用がされるため、当然には規程上の補償は適用されませんが、特別な規程がなければ、拡大解釈される可能性があります。そこで、規程上の補償範囲や額について見直しが必要です。

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