年俸制における賃金の扱い
平成20年1月25日 発行
年俸制における賃金の支給の仕方にはいくつかの方法がありますが、年俸制に対する誤解などから、実際の運用では労働基準法に違反しているケースも見られます。今月号では、年俸制により支給される賃金や賞与の取扱いについて解説します。

1.年俸制の場合の「賞与」の取り扱い

『賞与』とは… 定期または臨時に、原則として労働者の勤務成績に応じて支給されるものであって、その支給額が予め確定されていないもの(定期的に支給され、支給額が確定しているものは、名称に関わらず賞与とはみなされない)

具 体 的 事 例 解    説
ケース1
年俸額が600万円で、毎月の賃金額を600万円の16分の1の37.5万円、賞与として夏と冬に75万円ずつ支給する場合。
賞与の額はあらかじめ確定していることになり、賞与分も含めた年俸額全額の12分の1の額である50万円をベースに平均賃金・割増賃金を算定することになります。
ケース2
毎月の賃金額のみを決定し、賞与の具体的な支給額は算定対象期間における勤務実績により個別に決定する場合。(個々の社員には賞与の標準支給額を明示するにとどめる)
各人の具体的な支給額が決定されていないため、労働基準法上の「賞与」とみなされ、割増賃金・平均賃金などの算定基礎となる賃金に含まれないことになります。

2.年俸制における割増賃金の計算例

 年俸額600万円、月の平均所定労働時間160時間、毎月の賃金額37.5万円、賞与として夏と冬に75万円ずつ支給する場合で、時間外労働時間数30時間、休日労働時間数8時間だった月の割増賃金は、Bではなく、Aが正しい計算方法になります。

【A.正しい】 【B.誤り】
時間単価=600万円12ヵ月160時間  =3,125円
時間外労働の割増賃金単価=3,125円1.253,907円
休日労働の割増賃金単価 =3,125円1.354,219円
割増賃金額 3,907円30時間+4,219円8時間
117,210円+33,752円
150,962円  正しい計算方法
時間単価=450万円12ヵ月160時間  2,344円
時間外労働の割増賃金単価=2,344円1.25=2,930円
休日労働の割増賃金単価 =2,344円1.353,165円
割増賃金額= 2,930円30時間+3,165円8時間
87,900円+25,320円
113,220円  誤った計算方法
※年俸額から賞与分を除いた額

3.途中退職者の年俸の扱い

年俸額のうち、毎月支給する分の扱い

 年俸制適用者が年度の途中で退職する場合、当然ノーワーク・ノーペイの原則により、会社は残期間に対する年俸額を支払う義務はありません。なぜなら、年俸額が決定した後に、年俸制適用者が年度の途中で退職する場合は、退職日後の期間の労務提供義務を果たせないからです。
 ただし、「年度の途中で退職した場合でも年俸額の全額を支払う」などの特約がある場合は、その特約に従わなければなりません。

年俸額のうち、賞与として支給する分の扱い

 上記1.ケース1のように、年俸額のうち賞与として支給する分があらかじめ決まっている場合は、その年度の始めから退職日までの勤務日数に応じて、賞与分を含む確定年俸額全額を日割計算し、支払わなければなりません。
 これに対し、1.ケース2のように、賞与の具体的な支給額を算定対象期間の勤務実績により個別に決定するような場合は、支給日に在籍していることを賞与支給の条件としておけば、月給制適用者の場合と同様に、支給日に在籍していない年俸制適用者に対して賞与を支払う義務はありません。

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