職場での自殺の予防と対応
平成21年8月25日 発行
100年に一度の不況と言われる中、労働環境の悪化の影響もあってか、今年上半期の自殺者数は過去最悪のペースで推移しました。労働環境の悪化により社員が自殺をした場合、会社はその責任を問われるだけでなく、会社の財産でもある人材を失うことになります。今月号では社員の自殺を未然に防ぐための対応を解説します。

会社が負う可能性のあるリスク

労働環境と自殺に相当の因果関係があり、またその結果に予見可能性があれば、安全配慮義務※違反(民法第415条)として会社が損害賠償責任を負う可能性があります。過去には1億円以上の損害賠償を支払うことで和解した例もあります
※安全配慮義務とは、労働契約に伴い、雇い主が社員の生命、身体などの安全を確保しつつ働くことができるよう、必要な配慮をしなければならない義務のことです。
周囲の者が異常な言動に気づいていたにも関わらず、会社が適切な対応をとらず、社員が自殺あるいは自殺未遂をしてしまった場合、次のような責任を問われる可能性があります。
刑事責任業務上過失致死傷罪(刑法第211条))
民事責任債務不履行責任(民法第415条)、不法行為責任(民法第709条)、使用者の不法行為責任(民法第715条))
行政処分(労働局や労働基準監督署による作業停止命令(労働安全衛生法第99条))
労働環境が原因で社員が自殺した場合、会社のイメージ低下、信頼失墜にもつながります。

兆候

 自殺を考えている人は次のような兆候があると言われています。これらの項目に多く当てはまる場合は注意が必要です。
口数が少なくなった
能力低下やミスが多くなった(集中力の低下を含む)
食欲低下や体重減少、不眠がちになる
元気がなくなった
無表情になる(喜怒哀楽がなくなる)
アルコールの量が急に増える
周囲との関係を絶ち、引きこもりがちになる
身辺整理をはじめる
急に感謝の言葉が多くなった
突如、性格が変わったように見える
身なりへの関心がなくなる
今まで抑うつ的な態度であったのに、不自然なほど明るく振舞いだす                      など

会社や周囲の者がとるべき対応

 左記の兆候が見られる社員がいる場合は、会社や周囲の者は次のような対応が必要です。
@ 話を真剣に聞き、言葉の真意を理解する
 
A できる限りの傾聴をする
うまい助言をしなければならない」と焦らず、徹底して聞き役になる
 
B 産業医への相談や専門医の診察を受けることを勧める
 
C キーパーソンとの連携
原則として本人の同意を得て、日頃から本人と親しく信頼を置いている人、本人の置かれている状況や気持ちを理解している人(キーパーソン)に協力を求める
 
D 休職、業務軽減や責任軽減などの配慮

会社が負う可能性のあるリスク

 自殺という悲しい出来事を起こさせないためにも、その手前の段階で、家族や職場の同僚など周囲の人が異常に気づいて相談 をしたり、本人が自発的に相談できるような健康相談体制を整備することが重要です。
(健康相談体制の整備は労働安全衛生法第69条により、会社の努力義務とされています)

 具体的な健康相談体制の整備・充実とは次のようなことです。
  @管理監督者に対する教育の中に積極的傾聴法を含める
  A気軽に上司等へ相談するよう社内報などで呼びかける
  B直接相談しづらい社員のために、電話やメールを活用して相談を受け付ける
  C健康診断の問診を充実させる
 これらの対応がとれない中小企業では、産業保健推進センターや精神保健福祉センターを活用する方法もあります。

未遂者への援助

 自殺未遂をした人が専門医の治療を受けて立ち直ったように見えても、職場や家庭の状況の変化により自殺したいという気持ちが再発することがあります。周囲にいる者は本人が困難に直面した場合、すぐに専門医の長期的、継続的な治療を受けられるよう援助する体制を整えておくことが重要です。

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