能力不足を理由とする解雇の有効性の判断
平成22年7月25日 発行
社員の能力が会社の求めるレベルに満たない場合でも、会社は簡単に社員を解雇することはできません。最終的に解雇せざるを得ない状況になった場合でも、裁判では「会社はどのような教育をしたのか」、「解雇を回避するためにどのような努力をしたのか」ということが重要な判断要素になります。今月号では能力不足を理由とする解雇が有効と判断されるためのポイントを解説します。

【能力不足を理由とする解雇を検討する前にチェックすべきポイント】

一般の社員が能力不足であった場合 管理職として中途採用された社員が能力不足であった場合
@ 就業規則などの解雇事由に該当しているか
A 能力不足の程度が、解雇もやむをえないほどに著しく低いか
B 教育訓練の実施など、能力向上のための努力を十分行ったか
C 本人に改善の意欲がないなど、将来にわたって能力向上の見込みがないか
D 能力を発揮できそうな他の部署・職務への配置転換を検討・実施したか
E 他の社員と比較して、不均衡な取り扱いをしていないか
F 会社の指導や管理体制に落ち度がなかったか
@ 就業規則などの解雇事由に該当しているか
A 特定の地位に就けることが雇用契約の内容となっていたか
B その地位に相応する賃金が支払われているか
C その地位における職務の遂行に必要な能力や適性が不足しているか
D 会社の要求する職務内容・遂行能力が雇用契約上明確になっているか

【裁判例に見る能力不足社員への解雇が有効と判断されるためのポイント】

@相当長期間の注意・指導を行う  能力不足の社員に対する解雇が有効と認められるためには、相当長期間にわたる注意・指導を行う必要があります。裁判例を見ると、「注意・指導を行わなかった」事例や「注意1回、始末書の提出1回」の事例では解雇が無効と判断されているのに対して、解雇が有効と判断された事例では、少なくとも1年以上指導・教育を行っています。
 ただし、中途入社の社員で、特定の技能・能力を持っていることを前提に高額な給与で雇い入れた社員が、実際はその技能・能力を持っていなかったようなケースでは、事前の注意・指導が必要とはされていませんが、指導・教育は行った方がよいでしょう。
A注意・指導を行った証拠を文書で残しておく  会社が能力不足の社員に注意・指導を行っていたとしても、裁判では証拠がなければその事実を認められることは少ないでしょう。解雇が有効と認められた事例では、いずれも注意・指導のメモや文書を証拠として残していたようです。
 なお、始末書や顛末書など、本人の記名押印のある文書を残しておくと、証拠としてより信憑性が増すといえます。
B具体的な改善項目の設定を適正に行う  具体的な改善項目の設定を行ったかということも、解雇の有効性を判断する上で重要な要素になります。解雇が無効と判断された事例では、解雇前に改善項目の設定を行っていませんが、有効と判断された事例では、いずれも具体的な改善項目の設定を行っていました。

【改善項目を設定する際の注意点】
達成可能な改善項目を設定すること
(達成不可能な高い改善項目を設定した場合は、退職させるための嫌がらせと取られる可能性があります)
改善項目の設定は本人の意見も聞いて、同意文書を取り付けておくこと
(社員の意見を一部でも取り入れておけば、その改善項目の設定は会社が一方的に押し付けたものではないと評価されます)
観察期間を設けて、できれば2回以上のチャンスを与えること
C解雇の前に配置転換・異動や退職勧奨を行う 解雇を検討する前に、まずは配置転換・異動を行い、それでも改善が見られない場合は退職勧奨を行います。退職勧奨に応じなければ、最終手段である解雇を検討することになります。裁判では、会社が解雇をする前にやるべきことをやったかどうかが重視されるため、このプロセスを踏むことが非常に重要です。
なお、個々の具体的な事情により、判断基準のポイントとなる事項が上記のほかにも考慮される場合があります。

| 戻る |

Copyright(C) 1998-2010 CommunicationScience Co.,Ltd All Rights Reserved.