労災保険の第三者行為災害について
平成22年9月25日 発行

業務上と通勤中の災害には労災保険が適用されますが、交通事故のように、労災保険の保険関係の当事者である「政府」「事業主」「労働者」以外の「第三者」の行為で起きた災害(以下、「第三者行為災害」といいます)は複雑で、取り扱いを誤ると被災労働者の受ける損害賠償に影響することがあります。今月号では、この第三者行為災害について解説します。

【第三者行為災害における労災保険給付と損害賠償の関係】

◆第三者行為災害の場合、被災労働者は第三者に対して損害賠償を請求する権利と労災保険給付を請求する権利の両方があります。しかし、本来、被災労働者の損失を補うのは災害の原因を作った第三者であるため、同じ理由で両方から損害の補てんを受けることのないよう、労災保険法では第三者行為災害に関する労災保険の給付と民事損害賠償の調整方法を定めています。

@求償⇒労災保険の給付が先に行われた場合
政府は労災保険の給付額を第三者(交通事故の場合は保険会社など)から返してもらうことになります。
A控除⇒損害賠償が先に行われた場合
政府は第三者から受けた損害賠償と同じ理由で支給される労災保険の給付をしないことになります。

※求償、控除ともに、先に支給された同じ理由による給付(賠償)額を限度に調整が行われますが、慰謝料や特別支給金は調整の対象とはなりません。

【自賠責保険との調整】

◆第三者行為災害で最も多いのは交通事故ですが、原動機付自転車を含むすべての自動車は自賠責保険(「自賠責共済」を含む)に入っていなければ運転することができません。

◆交通事故の場合、自賠責保険と労災保険の給付とのどちらを先に受けるかは、被災労働者が自由に選ぶことができます。
ただし、先に自賠責保険から保険金の支払いを受けると、次のようなメリットがあるため、基本的に政府は、自賠責保険を優先するよう勧めています。これを「自賠先行」と呼んでいます。
<自賠先行のメリット>
@仮渡金制度や内払金制度を利用することで、損害賠償の支払いが速やかに行われること
A自賠責保険の方が労災保険の給付より幅が広いこと(例えば、労災保険では給付が行われない慰謝料が払われます
B療養費の対象が労災保険より幅広いこと
C休業損害が原則として100%補てんされること(労災では休業(補償)給付60%+特別支給金20%)

◆自賠先行の場合、自賠責保険の支払いが次の限度額に達するまでは、同じ事由について労災保険の給付は支給されません。
また、労災保険の給付を先に受ける場合、同じ事由について自賠責保険からの支払いを受けることもできません。
<自賠責保険の保険金額の上限>
@死亡による損害 3,000 万円
A傷害による損害 120 万円(治療費の他、通院、自宅療養中の諸経費、休業損害などが含まれます)
B後遺障害による損害 等級に応じて最高3,000 万円(常時介護が必要な場合は4,000万円まで)
※自賠責保険では、重過失(過失割合70%以上の場合)を除いて保険金額の過失相殺は行われません

◆損害が小さく、すべての損害を合わせても120 万円以下のときは自賠先行で問題ありません。しかし、治療費だけで120万円を超えるようなケースでは、慰謝料など労災保険の支給対象とならない損害について自賠責保険からは支給されないため、
労災保険の給付を先に受け、慰謝料その他の損害については自賠責保険から補てんしてもらう方が良いということになります。
(なお、自賠責保険に続いていわゆる任意保険の保険金を先に受けるか、労災保険給付を先に受けるかも自由に選択できます。)

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