兼業に関する基礎知識
平成22年11月25日 発行

多くの会社は就業規則で兼業を禁止していますが、裁判例では、たとえ就業規則に定めた場合でも無制限に兼業を禁止できる訳ではないとしています。今月号では、兼業に関する基礎知識をQ&Aを交えて解説します。

1.兼業が禁止できる基準

 就業規則に「兼業禁止」についての定めがあっても、無制限に兼業を禁止できる訳ではありません。
それは、従業員が就業時間以外の時間をどのように過ごすかは、原則として個人の自由であるからです。
 一方で、兼業をある程度禁止しないと、企業活動に悪影響があることも事実です。
裁判例では次の@またはAのいずれかに該当する場合が、就業規則によって禁止される兼業に該当するとしています。

@従業員が二重就職をすることによって、会社の企業秩序をみだし、またはみだすおそれが大きいこと
A従業員の会社に対する労務提供が不能もしくは困難になること

※兼業禁止の規定を定めていない場合、上記@またはAの条件に該当しても従業員に兼業を禁止させることはできません。

2.兼業による残業代

 残業代の計算は従業員が1日に働いた時間で計算します。
下記の場合、各会社では1日8時間以内であっても、2つの会社を足すと1日8時間を超えるため、残業代の支払が必要になります。
1時間分の残業代が必要となります
 左記のように2社の勤務時間を合計して残業代が必要となった場合、時間外労働の原因を作った会社が残業代を支払わなければなりません。

これは、原則として後から雇用契約を結んだ会社が支払いますが、例えば先にA社で4時間、後からB社で4時間の雇用契約を結んだ場合で、A社で5時間の労働を行った場合には、A社が時間外労働を行う原因を作ったとして、A社が1時間分の残業代を支払うという意味です。

3.兼業に関するQ&A

Q.1  兼業を許可制にしているのですが問題ありませんか?
A.  兼業を許可制や届出制にすることは問題ありませんが、1.に挙げている基準に該当しなければ、兼業を申請されたときには許可しなければなりません。

 兼業の実態把握や過重労働防止、2.のような残業代計算のためにも許可制や届出制を導入し、許可や届出をもらう際に以下の項目を把握できるようにした方がよいでしょう。
@兼業の勤務先     A兼業先の職務内容
B兼業先の所定労働時間と実労働時間
C兼業先の勤務日数
 また、合理的な範囲を超えて、兼業を行う理由についての詳細な届出を求めることは避けてください。

Q.2  兼業している従業員の社会保険はどのようになりますか?
A.  雇用保険は、2つ以上の会社で被保険者の対象(所定労働時間が週20時間以上)となる場合であっても、生計を維持するのに必要な主たる賃金を受ける会社のみで加入します。
 社会保険は、2つ以上の会社で被保険者の対象(勤務時間と日数が正社員のおおむね3/4以上)となる場合は、それぞれの会社で加入することになりますが、健康保険の被保険者証は、あらかじめ選択した方の会社で発行されます。
Q.3  A社を退社後そのまま次の職場であるB社に向かう途中で事故に遭った場合、労災はどのようになりますか?
A.  B社での通勤災害となりますので、A社では労災の申請をする必要はありません。
 また、この場合の休業給付は、B社の給付基礎日額を用います。

Q.4  原則として、雇用契約は1日8時間までの労働でしか結べないと聞きましたが、A社ですでに1日8時間の雇用契約を結んでいる人とB社が雇用契約を結ぶことは可能ですか?
A.  B社で36協定を結んでいれば可能です。
 雇用契約上の1日8時間労働までという制限は、事業場ごとに見ますので、すでにA社で8時間の雇用契約を結んでいる人と、B社でさらに雇用契約を結ぶことは可能です。

 ただし、B社での勤務は始業時間から時間外労働となりますので、36協定の締結と残業代の支払が必要になります。
 (A社でも実労働が、8時間を超えているのであれば、A社でも36協定が必要となります。)

 また、B社での36協定の「所定労働時間」の欄には、A社の所定労働時間である「8時間」を記入することになります。

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