在籍出向に関するQ&A

平成24年9月25日  発行

多くのグループ会社を持つ大企業を中心に、人事交流や雇用調整など様々な目的のもとに「出向」が行われています。
出向には大きく分けて「在籍出向」と「移籍出向(転籍)」がありますが、出向元に社員としての身分を残したまま出向先で業務を行う在籍出向はその取扱いが複雑です。今月号では「在籍出向」についてQ&A方式で解説します。

【Q1】在籍出向とは?

【A1】出向先と出向元の両方に雇用関係が成立する契約です。

在籍出向とは、使用者(出向元)との労働契約に基づく社員としての身分を有したまま、別の会社(出向先)に赴き、出向先の指揮命令のもとに労務を提供するものです。

在籍出向の場合、出向元と出向先の両方に労働契約が発生し、二重の雇用関係が成立することになります。


出向に関しては労働契約法14条に定められており、実際に在籍出向を行う際は、法律に抵触しないように取り計らう必要があります。

出向契約解説

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【Q2】在籍出向の場合の就業規則の適用は?

【A2】出向元と出向先の取り決めでそれぞれが適用されます。

出向元と出向先の双方に雇用関係が成立するため、就業規則の適用についても双方の規則が適用されますが、実務的には出向契約の中で適用される範囲を取り決めすることになります。

【適用範囲の一般例】

  • ①  出向元の就業規則を適用
    ⇒解雇、退職、定年といった身分関係に関する事項
  • ②  出向先の就業規則を適用
    ⇒労働時間、休日、休憩、休暇、服務規律など勤務に関する事項
  • ③  出向元・出向先双方の就業規則を適用
    ⇒懲戒処分(基本は出向先、懲戒解雇は出向元)

【Q3】在籍出向の場合の社会保険の適用は?

【A3】まず雇用保険については、出向者が生計を維持するために必要な主たる賃金を受ける方の雇用関係についてのみ、被保険者となります。

労災保険については、出向の目的や出向契約の内容、勤務実態によって判断されます。出向者が出向先の組織に組み入れられ、出向先の指揮命令を受け、他の社員と同じ立場で勤務する場合には出向先の労災保険が適用されます。
(労災保険料の納付についても、出向元から支払われている賃金を出向先の賃金総額に含めて保険料を算定し、納付します)


健康保険・厚生年金保険については、出向元に出向者の身分が残るため、出向元での適用とするのが一般的です。

【Q4】関連会社に出向させる場合の注意点は?

【A4】就業規則などに根拠となる規定が必要となります。

在籍出向を行う場合には、就業規則などに根拠とする規定や出向規程などが定められており、それらを事前に周知しておけば、社員の包括的な同意が得られているものとして出向を命じることができ、出向者本人の個別の同意までは必要ありません。


ただし、出向先で賃金が減額になるなど、労働条件が悪くなる場合には包括的同意だけでは足りず、個別の同意が必要になります。






【Q5】出向期間を延長する場合や復帰命令を出す場合の注意点は?

【A5】原則として本人の同意を得て行うことが大切です。

出向期間の延長についても、就業規則や出向規程などに出向期間の延長についての取り決めがあり、延長の理由が合理的(業務上の必要性が継続しているなど)であれば有効とする判例が出ています。


ただし、実務上は本人の同意なく一方的に出向期間を延長するということは少なく、延長の理由や延長後の待遇などを説明し、本人の同意を得て行うことが一般的です。


また、出向元への復帰命令について問題になることは少ないですが、復帰の可能性がないことが明らかである場合を除き、出向元への復帰命令を出向者は拒むことはできないとされています。