36協定を締結・届出したら何時間でも残業させられるか?
36協定を締結する場合には、延長することができる労働時間を定める必要があります。具体的には、「1日」「1日を超え3カ月以内の期間」「1年」の3つについてそれぞれ延長する時間を定めます。
このうち「1日」については上限がありませんが、それ以外の期間には上限が設けられています。(詳細は下図のとおりです)
期 間 | 上 限(限度時間) |
---|---|
1週間 | 15時間 |
2週間 | 27時間 |
4週間 | 43時間 |
1カ月 | 45時間 |
2カ月 | 81時間 |
3カ月 | 120時間 |
1年 | 360時間 |
※1年単位の変形労働時間制の場合は上記より短い上限となります。
※自動車運転の業務など、上限が適用されない業務もあります。
どうしても上限を超えて残業をさせたい場合には、あらかじめ36協定の中に「特別条項」を設けておくという方法があります。ただし特別条項を設けた場合でも、臨時的な特別の事情がある場合でないと上限を超えた残業をさせることができないことに注意が必要です。
【特別条項の設ける際のポイント】
- 特別の事情をできるだけ具体的に定めること
- 特別の事情は①一時的・突発的なものであり②1年の半分以下であること
- 具体的な手続きを「協議」「通告」「届出」など定めること
- 上限を超える回数を定めること(1カ月の場合最大で年6回)
- 上限を超えて延長する時間を定めること
- 上限を超える延長時間にかかる割増賃金の率を定めること
- 上記の割増賃金率は2割5分を超える率とするように努めること
- 上限を超えて延長する時間はできる限り短くするように努めること
労働者代表は誰でもよいか?
会社と36協定を締結する労働者代表とは、「①労働者の過半数で組織する労働組合」か「②労働者の過半数を代表する者」とされています。
②の過半数代表者には、管理監督者はなることができません。また、代表者を選出する手続きについても下記のような手順を踏む必要があり、それを怠ると36協定自体が無効となる恐れがあるため注意が必要です。
- 過半数代表者を選出することを明らかにしたうえで行うこと
- 民主的な方法(投票や挙手のほか、労働者の話し合いや持ち回りでの互選など)で行うこと
- 選出にあたってはパートタイマーやアルバイトなどを含めたすべての労働者が手続きに参加できるようにすること
何を基準に「過半数」を考えればよいか?
正社員とパートタイマー・アルバイトなどの非正規社員が混在している職場の場合で、残業させるのは正社員だけという場合でも、36協定の代表者は非正規社員を含めた全社員で過半数を見る必要があります。(全社員には管理監督者や休職者も含まれますが、派遣労働者は含まれません)
また36協定は「事業場」単位で締結・届出の必要があるため、会社全体の過半数ではなく、支店や店舗ごとに過半数を満たす必要があります。(作業場的なもので独立した労務管理が行われていないところは上位の事業場と一括して考えます)
本社でまとめて届出することはできないのか?
Q3で説明したとおり、36協定は「事業場」単位で締結する必要があり、届出も支店や店舗を管轄する労働基準監督署に行わなければなりませんが、一定の条件を満たす場合に本社を管轄する労働基準監督署に一括して届出することができます。
本社と各事業場の協定事項において、「事業の種類」「事業の名称」「事業の所在地(電話番号)」「労働者数」以外の事項が同じであること
届出の方法としては、本社を含む事業場の数に応じた36協定を「届出事業場一覧表」という書類と併せて本社を管轄する労働基準監督署に提出することになります。
36協定を届出していても問題となるケースは?
多くの会社で見受けられることですが、毎年の締結・届出が形式的なものとなっており、実態が協定の内容や趣旨に則っていない場合に問題が発生します。
本来36協定は、労使間で定めたルールに則り、労働時間の延長を行うもので、労働時間の上限を設けることで長時間労働による労働者の健康被害を防ぐことが目的とされています。
特に、延長できる時間の上限は「月45 時間」かつ「年360 時間」とされているため注意が必要です。「月45時間」だけを意識していると、「45 時間× 12 ヵ月= 540 時間」となり360時間を超えてしまうケースがあります。
また、本当に労働者の過半数を代表する者と合意してルールを決めたのか、本当にそのルールは守られているのかという実態も重視されます。労働基準監督署の調査が入ったときはこうした点も問題となりますので、これを機に適正に運用されているか見直しをされてはいかがでしょうか。