通勤災害に関するQ&A

平成25年9月25日  発行

労働者が通勤の途中で被った災害(通勤災害)は労災保険からの給付対象になりますが、仕事中の災害(業務災害)に比べてその判断が難しいケースがあります。今月号では通勤災害についてケースごとにQ&A方式で解説します。

自宅マンションの階段で転んでケガをした場合は通勤災害と認められるか?

通勤災害と認められるためには「住居」と「就業の場所」を往復していることが必要であり、住居を出たところから通勤が開始していると判断されます。

マンションやアパートなどの集合住宅については、自室のドアまでが住居であり、階段やエレベーターなどの共有部分の移動は通勤とされるため、今回のケースでは、通勤災害が認められることになります。

但し、一戸建てについては、庭を含めて住居とみなされるため、玄関を出て門までの敷地内でケガをした場合には通勤災害とは認められません。

帰宅途中に落下してきた看板に当たってケガをした場合は通勤災害と認められるか?

通達では、「通勤災害は通勤に通常伴う危険が具体化したものと認められる場合をいい、天災地変による災害の場合は通勤災害とは認められない」としています。

一方で、「天災地変であっても災害を被りやすい事情があり、その事情と合わせて発生した場合には通勤災害と認める場合がある」ともいっています。

今回のケースの場合、特別な事情がなく看板が落ちてきたのであれば、通勤に通常伴う危険が具体化したとして通勤災害と認められます。

逆に通常は落下するような状態にない看板が台風の暴風によって落下したようなケースであれば、天災地変による災害として通勤災害は認められないということになります。

兼業禁止にもかかわらずアルバイト先に向かう途中にケガをした場合は通勤災害と認められるか?

平成18年4月1日から通勤災害の対象となる「通勤」の範囲に、複数の仕事をする者が事業場間を移動する場合も含まれています。

これはワークシェアリングや会社における副業解禁の動きや、短時間労働者が増えたことなどによって働き方が多様化したことに対応するためです。

労災保険では、例え会社が兼業を禁止している場合であっても実際の保険給付には影響しないとしているため、この場合の会社からアルバイト先への移動は通勤と認められて、アルバイト先で通勤災害の対象になります。

なお、兼業禁止に違反してアルバイトをしていたこと自体は、就業規則等に禁止規定があれば懲戒処分を行うことは可能です。

社有車で出勤する途中で事故を起こした場合は通勤災害と認められるか?

例えば営業車で業務を行う営業担当が、仕事で遅くなってしまったため直接帰宅し、翌日営業車で出勤するケースの場合、通常電車で通勤するところを、仕事が遅くなったという理由により便宜的に営業車で帰宅・出勤したものと考えられます。そのため、会社所有の車であっても通勤と認められ、その際の事故は通勤災害に該当します。

なお、通勤災害であっても次のような事情が認められる場合には業務災害になります。

①事業場専用の交通機関で出退勤を行う場合

②出勤中または退勤の途中で業務を行う場合

  (会社からの命令があったかどうかがポイント)

③突発的な事故で事業主から呼び出しを受けて緊急出勤する場合

単身赴任者が帰省する際にケガをした場合は通勤災害と認められるか?

月に1~2回程度、反復・継続して単身赴任者が仕事を終えて直接家族の住む住居へ帰省する場合は通勤災害となります。

平成18年4月1日からは、仕事を終えた後にいったん赴任先に帰宅し、そこから帰省先に移動する場合についても通勤災害の対象となりましたが、原則として移動が就業当日か翌日でなければ認められません。例えば、年末年始などでラッシュを避けるために数日後に帰省する場合には通勤災害とは認められないということになります。
(但し、天候悪化による交通機関の乱れなど、特別の事情がある場合には例外的に認められる場合があります)

電車を乗り過ごして歩いて帰る途中でケガをした場合は通勤災害と認められるか?

通勤災害と認められる「通勤」の条件として、「合理的な経路」であることが必要です。

今回のケースの場合、乗り過ごしたのが一駅程度であり、その駅から歩いて自宅に帰っても通常利用している駅からの時間と大差がなければ「合理的な経路」による通勤として通勤災害が認められると考えられます。

一方で終点まで乗り過ごしてしまい、そこから何時間もかけて歩いて帰るような場合は「合理的な経路」とはいえず通勤災害とは認められません。

なお、健康のために一駅手前の駅で降りてそこから自宅まで歩く場合も「合理的な経路」とは判断されないため、通勤災害の対象外となります。