<パワハラとは>
パワハラという言葉がさす内容や定義について、法令等での明確な定めはありませんが、厚生労働省の「職場のいじめ・嫌がらせに関する円卓会議ワーキンググループ報告」(平成24年1月30日)では次のように定義しています。
上記の定義が示す行為を具体化すると、次の6つの行為類型に分類されます。
(すべてのパワハラ行為が下記の行為類型のいずれかに該当するわけではありません。)
① 暴行・傷害 |
身体的な攻撃 |
② 脅迫・名誉棄損・侮辱・ひどい暴言 |
精神的な攻撃 |
③ 隔離・仲間外し・無視 |
人間関係からの切り離し |
④ 業務上明らかに不要なことや遂行不可能なことの強制、仕事の妨害 |
過大な要求 |
⑤ 業務上の合理性なく能力や経験とかけ離れた程度の低い仕事を命じることや仕事を与えないこと |
過小な要求 |
⑥ 私的なことに過度に立ち入ること |
個の侵害 |
<裁判例①> 誠昇会北本共済病院事件(さいたま地判平成16年9月24日)
【事件の概要】
看護師資格の取得を目指し看護専門学校に通学しながら准看護士としてA病院に勤務していた男性職員が、職場の先輩Bからのいじめや嫌がらせにより自殺したことに対し、男性職員の遺族がA病院とBに対し民事損害賠償請求しました。
【判決の結果(要旨)】
●Bは自らまたは他の男性看護師を通じて、男性職員に対し、冷やかし・からかい、嘲笑・悪口、他人の前で恥辱・屈辱を与える、たたくなどの暴力等の違法ないじめを行ったものと認められること
●A病院は男性職員に対し、雇用契約に基づき、職場の上司および同僚からのいじめ行為を防止して男性職員の生命および身体を危険から保護する安全配慮義務を怠っていたこと
●男性職員へのいじめは3年近くに及んでいること、職員旅行での出来事や外来会議でのやりとりは雇い主である病院も男性に対するいじめを知り得たにもかかわらず、いじめを防止する対策をとらなかったこと
⇒裁判所は上記のような判断を行い、いじめ行為を行ったBに対して慰謝料1000万円の損害賠償額の支払いを命じるとともに、A病院に対しても安全配慮義務違反により500万円の損害賠償額の支払いを命じました。
<裁判例②> 三井住友海上火災保険上司事件(東京高判平成17年4月20日)
【事件の概要】
保険会社の所長が部下である課長代理の男性職員に対して、業務指導の一環として叱責メールを送付したことが、名誉棄損またはパワハラの違法行為にあたるとし、その職員は慰謝料100万円を請求しました。
【判決の結果(要旨)】
●「意欲がない。やる気がないなら会社を辞めるべきだと思います。当サービスセンターにとっても、会社にとっても損失そのものです。あなたの給料で業務職が何人雇えると思いますか。あなたの仕事なら業務職でも数倍の業績を挙げていますよ」のメールの内容は、退職勧告とも、会社にとって不必要な人間であるとも受け取られるおそれのある表現が盛り込まれていること
●同じ内容のメールを職場の従業員数十人に対しても送信していたこと
⇒一審では本件メールが業務指導の一環であって私的な感情からの嫌がらせではないことを理由に違法性を否定しましたが、二審ではメールの内容は許容範囲を超えるとして違法行為の成立を肯定し、慰謝料5万円の支払いを命じました。
<企業の対処法>
企業において上司が部下に教育・指導を徹底することは当然の行為ではありますが、許容範囲を超えるとパワハラとなるリスクがあります。従って、企業はパワハラのリスクを軽減するためにも次の取り組みを実施する必要があります。
① 教育・研修の実施 |
従業員教育…職場でのいじめ行為等がパワハラで違法となることを教育・研修を通して周知徹底させる。 管理者教育…部下のいじめ行為を放置しておくと監督責任を問われること、パワハラになることを恐れて部下のミスや問題行動を放任してはならないことも教育する。 |
② 内部通報窓口の設置 | 匿名であっても通報を受け付ける、完全に外部の法律事務所等を通報窓口に設置するなど通報者の不安が生じないような徹底したルールを構築しておく。通報者やその協力者が不利益な扱いを受けないように徹底する。 |