精神障害による労災認定について

平成28年12月25日  発行

最近も大手広告会社での過労自殺のニュースが話題になりましたが、近年、仕事によるストレス(業務による心理的負荷)による精神障害についての労災認定件数が増えています。今月号では、精神障害(自殺)の労災認定の考えかたについて解説します。

【精神障害の労災認定の条件】

① 認定基準の対象となる精神障害(うつ病、急性ストレス反応など)を発病していること

② 認定基準の対象となる精神障害の発病前おおむね6か月の間に、業務による強い心理的負荷が認められること

③ 業務以外の心理的負荷や、個人の要因(精神障害の既往歴やアルコール依存状況など)による発病ではないこと

【業務による強い心理的負荷の考えかた】

★「業務による心理的負荷評価表」によって判断され、「強」と評価された場合には、上記労災認定の条件の②に該当します。

① 『特別な出来事』に該当するものがある場合 ⇒ 心理的負荷の総合評価は「強」

心理的負荷が
極度なもの

・生死にかかわる、または永久に労働不能となる障害を負う業務上のケガや病気をした

・業務に関連し、他人を死亡させ、または生死にかかわる重大なケガを負わせた(故意は除く)

・強制わいせつ行為や、セクシュアルハラスメントを受けた              など

極度の長時間労働 ・発病直前の1か月におおむね160時間を超える時間外労働(残業)があった場合 など

② 上記①の『特別な出来事』に該当するものがない場合 ⇒ 以下のステップで心理的負荷を「強」「中」「弱」の3段階で評価

1.「具体的な出来事」へのあてはめ 心理的負荷評価表の「具体的な出来事」に当てはまるか(近いか)を判断して、強い方から「Ⅲ」「Ⅱ」「Ⅰ」で表します。
2.出来事ごとの心理的負荷の総合評価 あてはめた具体的な出来事にある「具体例」の内容に、事実関係が合致する場合には、その強度で評価。合致しない場合は「総合評価の視点」で判断します。
3.出来事が複数ある場合の全体評価

・複数の出来事が関連して生じた場合は、全体をひとつの出来事として評価。

・関連しない出来事が複数生じた場合は、それぞれを考慮して全体評価。

《心理的負荷評価表の例》 ※例はいずれも通常は「中」と判断されるものです。

平均的な心理的負荷の強度 心理的負荷の
総合評価の視点
心理的負荷の強度を「弱」「中」「強」と判断する具体例
具体的な出来事 心理的負荷の強度
1か月に80時間以上の時間外労働を行った    

・業務の困難性

・長時間労働の継続期間

(この項目の「時間外労働」は、すべて休日労働時間を含みます)

【「弱」になる例】

・1か月に80時間未満の時間外労働を行った

【「中」である例】

・1か月に80時間以上の時間外労働を行った。

【「強」になる例】

・発病直前の連続した2か月間に、1月当たりおおむね120時間以上の時間外労働を行う、または発病直前の連続した3か月間に1月当たりおおむね100時間以上の時間外労働を行い、その業務内容が通常その程度の労働時間を要するものであった

上司とのトラブルがあった    

・トラブルの内容・程度等

・その後の業務への支障等

【「弱」になる例】

・上司から、業務指導の範囲内である指導・叱責を受けた

・業務をめぐる方針等において上司との考え方の相違が生じた

【「中」である例】

・上司から、業務指導の範囲内である強い指導・叱責を受けた

・業務をめぐる方針等において、周囲からも客観的に認識されるような対立が上司との間に生じた

【「強」になる例】

・業務をめぐる方針等において、周囲からも客観的に認識されるような大きな対立が上司との間に生じ、その後の業務に大きな支障を来した

【「自殺」の取り扱い】

★業務による心理的負荷によって、精神障害を発病した人が自殺を図った場合は、精神障害によって、正常な認識や行為選択能力、
自殺行為を思いとどまる精神的な抑制力が著しく阻害されている状態に陥ったもの(故意の欠如)と推定
されます。

⇒ 原則として、労災認定されることになります。