1.転勤の定義と法的な解釈・制限
【転勤とは?】
「転勤」には、労働者の転居を伴う配置の変更について用いられる場合と、転居を必要としない就業場所の変更を伴う配置の変更について用いられる場合の両方がありますが、一般的には転居を伴う配置の変更を「転勤」と呼んでいます。
【転勤についての法的な解釈と制限】
① 配転命令権
⇒転勤を含む配置の変更は、労働契約上の職務内容・勤務地の決定権(配転命令権) に基づき行われています。
裁判例では、就業規則に定めがあり、勤務地を限定する旨の合意がない場合には、企業が労働者の同意なしに勤務地の変更を伴う配置転換を命じることを広く認めています。
※下級審では、労働者の育児や介護などの事情に対する配慮の状況等を、判断に際して考慮する例もみられます。
② 育児・介護休業法による制限(第26条)
⇒企業が就業場所の変更を伴う配置の変更をしようとする場合に、それによって育児や介護が困難となる労働者がいるときは、育児や介護の状況に配慮しなければならないと規定しています。
③ 男女雇用機会均等法による制限(第7条)
⇒性別による間接差別を禁止しており、合理的な理由がない限り、間接差別となり得る措置を省令で列挙しています。
(ア) 募集、採用、昇進や職種の変更にあたって、転居を伴う配置の変更に応じられることを条件とすること
(イ) 昇進にあたって、異なる事業場間の配置の変更の経験があることを条件とすること
2.転勤に関する雇用管理(の見直し)のポイント
●転勤に関する雇用管理のありかたを見直す場合、以下のようなポイントを踏まえてチェックしていく必要があります。
①自社の転勤の実態(現状)を把握する
(ア)目的の確認
・自社の転勤の目的が主にどのようなものなのかを再度確認し、主旨に合っていない転勤がないかをチェック
する(適正配置、人材育成、昇進管理、組織活性化など)
(イ)転勤の具体的な状況の確認
・自社組織での異動規模、異動者中の転勤者割合、転勤する可能性のある者と実際に転勤を経験する者の人数・割合等
・労働者の社内キャリアにおける異動の時期や年齢層、回数、期間、地理的範囲、本拠地の有無、単身赴任などの状況
(ウ)転勤に関する取扱いの確認
・転勤の起案から決定までのプロセスと決定権者、労働者の事情や意向の把握方法など
・転勤に付随して自社が負担している費用(赴任旅費、単身赴任手当、社宅費等)
・転勤と処遇(賃金、昇進・昇格)との関係
・転勤についての労働者の仕事と家庭生活の両立等に照らした課題など
(エ)転勤の目的・効果の検証
・自社において転勤が果たしている機能は(ア)のいずれであるかを検証することが有効
人材育成の要素であれば労働者の職務遂行能力の向上に転勤がどの程度貢献しているかを客観的に検証するなど
②転勤に関する運用の内容を見直す
⇒実態(現状)把握をもとに、転勤に関する基本方針を定めたうえで、具体的な運用内容を見直していきます。
(A)転勤ルールを明確にする
・転勤可能性の有無や地域的な範囲、時期、回数、一つの地域における赴任期間、本拠地の有無など、転勤の有無や取り扱いルールを明確に定めて、社内で共有する
(B)労働者の事情や意向を把握するしくみをつくる
・育児や家族介護などの個々の労働者の事情や意向について、書類や面談により個別に把握するしくみをつくる。
《定期的な状況把握》
→毎年の定期的な自己申告書などに労働者の事情や意向を記載する欄を設けることや、上司や人事部門による定期的な面談を行う
《転勤の打診の段階での意向確認》
→労働者が転勤の対象として候補となった時点において、労働者の事情に変更がないか等を確認し、
この段階で労働者の事情が判明した場合には、個別の対応が可能かどうかを検討する
(C)転勤が難しいケースに対応するための仕組み
・育児や家族介護など一定の事由について、期間や回数等を限った形で、労働者の申告により免除する又は転勤の支障となる事情を取り除く工夫をすることを検討する
※上記をふまえて、転勤対象者への個別対応を行っていくこととなります。