労働時間の考え方・労働基準法の時効の見直し

令和2年1月25日  発行

労働基準法の改正により、時間外労働の上限規制が適用(中小企業は2020年4月から)され、労働時間の把握が重要となっています。
今月号では、労働時間に該当するか否かの判断について、具体的な事例を挙げながら解説します。
 また、2020年4月1日の民法改正に伴い労働基準法の時効の見直しが予定されていますので、その内容についても解説します。

1. 労働時間の考え方について

(1) 労働時間に該当するか否かの判断について

○ 労働時間とは、会社の指揮命令下に置かれている時間であり、会社の明示または黙示の指示により社員が業務に従事する時間は労働時間に該当します。

○ 労働時間に該当するか否かは、労働契約や就業規則などの定めによって決められるものではなく、客観的に見て、社員の行為が会社から義務づけられたものといえるか否か等によって判断されます。

(2) 具体的な事例

【研修・教育訓練の取り扱いについて】

(労働時間に該当しない事例)

① 研修・教育訓練について、業務上義務づけられていない自由参加のもの。

② 終業後の夜間に行うため、弁当の提供はしているものの、参加の強制はせず、また、参加しないことについて不利益な取り扱いもしない勉強会。

③ 社員が会社の設備を無償で使用することの許可をとった上で、自ら申し出て、一人でまたは先輩社員に依頼し、会社からの指揮命令を受けることなく勤務時間外に行う訓練。

(労働時間に該当する事例)

① 研修・教育訓練への不参加について、就業規則で減給処分の対象とされていたり、不参加によって業務を行うことができなかったりするなど、事実上参加を強制されている場合。

② 会社が指定する社外研修について、休日に参加するよう指示され、後日レポートの提出も課されるなど、実質的な業務指示で参加する研修。

③ 自らが担当する業務について、あらかじめ先輩社員がその業務に従事しているところを見学しなければ実際の業務に就くことができないとされている場合の業務見学。

【労働時間の前後の時間の取り扱いについて】

(労働時間に該当しない事例)

① 更衣時間について、制服や作業着の着用が任意であったり、自宅から着用を認めている場合。

② 交通混雑の回避や会社の専用駐車場の駐車スペースの確保等の理由で、社員が自発的に始業時刻より前に会社に到着し、始業時刻までの間、業務に従事しておらず、業務の指示も受けていないような場合。

【直行直帰・出張に伴う移動時間の取り扱いについて】

(労働時間に該当しない事例)

① 直行直帰・出張に伴う移動時間について、移動中に業務の指示を受けず、業務に従事することなく、移動手段の指示も受けず、自由な利用が保証されているような場合。

② 取引先の会社の敷地内に設置された浄化槽の点検業務の為、自宅から取引先に直行する場合の移動時間。

③ 遠方に出張するため、仕事日の前日に当たる休日に、自宅から直接出張先に移動して前泊する場合の休日の移動時間。

2. 民法改正に伴う労働基準法の時効規定の見直しについて(2020年4月1日施行予定)

民法改正に伴う賃金請求権等の消滅時効について、労働政策審議会で審議が行われた結果、厚生労働大臣に、下記①~③の内容で答申が行われています。当分の間3年間、最終的には5年間へ延長となる予定です。これにより未払い残業代等のリスクが高まることが予想されます。改めて適切な労働時間の把握が重要になってきます。

① 労働者名簿、賃金台帳および雇入れ、解雇、災害補償、賃金その他労働関係に関する重要な書類の保存期間について5年間に延長する。
(現状の時効:3年)

② 付加金の請求を行うことができる期間について、違反があった時から5年に延長する。(現状の時効:2年)

③ 賃金(退職手当を除く)の請求権の消滅時効期間を5年に延長する。(現状の時効:2年)
ただし①~③について経過措置として当分の間3年間とする。